インド新卒採用の給与戦略:相場観と勝てるオファー設計
優秀なインド人学生を採用するには、現地の給与構造と相場観の正確な理解が不可欠です。本記事では、IIT(インド工科大学)をはじめとするトップ層の最新給与トレンドと、日本企業がBig Techと競合しても勝ち抜くためのオファー設計(CTC構造)について解説します。
Contents
IIT・Tier1大学のリアルな給与相場
インドのトップ大学(IITs, NITs, BITS Pilaniなど)の新卒採用市場は、極めて競争が激しい「売り手市場」です。日本企業の採用担当者がまず認識すべきは、提示額の基準値です。
LPA(Lakhs Per Annum)という指標
インドでは年収をLakh(1 Lakh = 10万ルピー)単位で語ります。現在のIITトップ層の相場は、最低でも20 LPA(約360万円〜)からスタートし、優秀層では30〜40 LPA(約540万〜720万円)に達することも珍しくありません。米系Big Techや高頻度取引(HFT)を行う金融企業は、さらに桁違いのオファー(1Cr = 1000万ルピー超)を提示します。
日本企業が狙うべき適正ライン
すべての日本企業がGAFAと同額を出す必要はありません。日本企業が狙うべき「トップ層の中で日本就職に関心がある層」に対する競争力のあるオファーラインは、概ね22〜30 LPA(約400万〜550万円)程度が目安となります。Tier2大学の優秀層であれば、15〜20 LPA程度から交渉可能です。
CTC(Cost to Company)の構造と落とし穴
インドの給与提示において最も重要な概念が「CTC(Cost to Company)」です。これは会社が従業員にかける「総費用」を指しますが、日本で言う「額面給与」とは構成が異なります。
固定給と変動給のバランス
CTCには、基本給(Base Salary)のほか、家賃手当(HRA)、特別手当、そして変動賞与(Variable Pay)、さらには保険料や退職金積立(PF)までが含まれます。学生はCTCの総額だけでなく、「Take Home(手取り)」がいくらになるかをシビアに見ます。CTCが高くても、変動比率が高すぎたり、将来の権利確定(Vesting)が遠いストックオプション(ESOP)ばかりだと、オファーを辞退されるリスクが高まります。
Joining Bonusの活用
競合他社との差別化に有効なのが「Joining Bonus(入社支度金)」です。これはCTCに含まれる場合と別途支給の場合がありますが、入社直後のキャッシュフローを重視する学生にとって、数十万ルピーの一時金は強力なアトラクションになります。
「購買力平価(PPP)」を用いたロジック構築
額面金額だけで比較すると、ルピー安の影響もあり、日本円の給与は米ドル建ての給与に見劣りすることがあります。そこで重要になるのが、PPP(購買力平価)を用いた説得ロジックです。
東京での生活水準の可視化
「日本の30 LPAは、インドの30 LPAよりも生活水準が高い」あるいは「貯蓄ができる」という事実を、具体的な生活コスト(家賃、食費、インフラ)と比較して示す必要があります。単に「円」で提示するのではなく、「可処分所得として何が買えるか」「どれだけ安全で快適な生活が送れるか」を数値化してプレゼンすることが、意思決定の後押しになります。
インフレ率と昇給曲線の提示
インド経済はインフレ基調にあり、現地企業では年間10%〜15%の昇給が一般的です。日本企業によくある「年数%の定昇」という感覚でオファーを出すと、数年後の離職原因になります。
キャリアパスと昇給の明確化
初任給だけでなく、入社後3年〜5年の昇給シミュレーションを提示することが重要です。「成果を出せば、日本の年功序列に関係なく給与が上がる」という制度設計と実績を示すことで、上昇志向の強いインド人材の安心感を勝ち取れます。
給与以外の「リロケーションパッケージ」
海外就職を決断する学生にとって、金銭以外のサポートは心理的な障壁を下げる決定打となります。
生活立ち上げのフルサポート
渡航航空券の支給
最初の1ヶ月〜3ヶ月の住居提供(または借り上げ社宅)
ビザ申請費用の全額負担と手続き代行
日本語学習費用の補助
これらを「福利厚生」としてではなく、オファーレターに明記された「パッケージ」として提示することで、企業としての誠意と受け入れ体制の万全さをアピールできます。
まとめ
インド新卒人材の採用における給与戦略は、単なる「高い金額の提示」ではありません。CTCの構成要素を最適化し、PPPを用いて実質的な豊かさを伝え、インフレ率を考慮した昇給カーブを描くという、緻密な計算が必要です。彼らは自身の市場価値を正確に把握しています。だからこそ、論理的で誠実なオファー設計が信頼を生みます。
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