EORは本当に割高か?直接雇用との隠れコスト比較と実務判断基準

EORの見積もりは、直接雇用より高く見えることがあります。 ただし、その差はEORだけが割高だからではなく、直接雇用側の法人設立、給与計算、法務、税務、撤退費用が別予算に分散して見えにくいことでも起こります。 この記事では、EORと直接雇用を総雇用コストで比べ、海外採用でどちらを選ぶべきかを判断する方法を整理します。
目次
結論要約
EORと直接雇用を比べるときは、月額手数料だけを見ても判断できません。
比較単位をそろえると、どちらが高いかではなく、どの段階でどちらが合理的かが見えてきます。
EOR費用は、給与だけでなく海外直接雇用の固定費と比較する
比較単位は、12〜24か月の総雇用コストにそろえる
少人数、初めての国、撤退可能性がある採用ではEORが合理的になりやすい
1か国で15〜20名以上を継続採用するなら、現地法人や直接雇用の再検討余地が出る
EORは雇用インフラであり、採用成功率や技術評価、受け入れ設計までは自動で解決しない
EORの総雇用コストとは何か
EORの総雇用コストとは、Employer of Recordを通じて海外人材を雇用するときに発生する、給与、雇用主負担、法定福利、EOR手数料、任意福利厚生、オンボーディング、為替、退職時対応などを含む総額です。
料金ページに表示される月額手数料だけを指すものではありません。
見積書の金額だけでは比較できない
EORの見積書には、給与、雇用主負担、福利厚生、管理手数料、国別の追加費用がまとまって表示されることがあります。
そのため、社内では「毎月の負担が大きい」と見えやすくなります。
一方、直接雇用では費用が別々の部署や予算に分かれます。
法人設立は法務、給与計算の仕組みは経理、雇用契約の確認は外部専門家、現地労務は人事や現場責任者が担うことがあります。
これらを月額換算しないまま比較すると、直接雇用だけが安く見えます。
実効月額でそろえる
比較に使うべき単位は、実効月額です。
初期費用を想定雇用期間でならし、毎月の運用費とリスク対応費を足します。
たとえば、現地法人の設立費用は入社前に払うため採用費から漏れがちですが、海外雇用のために必要な費用である以上、比較から外すべきではありません。
費用区分 | EORの場合 | 直接雇用の場合 |
|---|---|---|
初期設定 | 低い、または手数料に含まれる | 法人、銀行、給与計算、契約整備 |
月額運用 | 給与、雇用主負担、EOR手数料 | 給与、雇用主負担、給与計算運用 |
リスク対応 | 一部をEORが支援 | 会社が現地雇用リスクを負う |
この表は、EORが常に安いという意味ではありません。
比較条件をそろえるための整理です。
初期設定、月額運用、撤退時の負担を同じ枠に置くと、社内で説明できる判断に変わります。
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EORと直接雇用の費用比較
EORと直接雇用の差は、採用人数、対象国、開始期限、現地で事業を続ける期間によって変わります。
海外で1人だけ採用する場合、EORは固定費を避けやすい方式です。
一方で、1つの国で一定人数を継続採用するなら、直接雇用の固定費を人数でならせるようになります。
公開料金から見える目安
公開料金は、最終見積もりではなく比較の入口として使います。
RemoteはPricingページでEmployer of Recordを1人あたり月額699米ドルと示しており、ヘルプセンターでも標準的なEOR management feeを同水準で説明しています。
DeelはEORを1人あたり月額599米ドルからと案内しています。
ただし、国、雇用条件、福利厚生、追加サービスによって最終費用は変わります。
WorkdayのEOR解説では、一般的なEOR手数料を1人あたり月額199〜1,500米ドル、現地法人の設立や維持にかかる費用を10,000〜50,000米ドル以上の幅で整理しています。
この数字の使い道は、特定ベンダーの優劣を決めることではありません。
直接雇用にも、給与以外の固定費があると社内で説明するための材料です。
まず使う判断表
最初の比較では、細かい見積もりに入る前に採用条件を分けます。
同じEORでも、1人目の海外採用と、現地チームの本格立ち上げでは意味が変わります。
状況 | 最初に検討する方式 | 理由 |
|---|---|---|
1か国で1〜5名 | EOR | 小規模では法人設立費を回収しにくい |
数日〜数週間で開始したい | EOR | 雇用インフラを早く使える |
1市場で15〜20名以上 | 現地法人を再検討 | 固定費を人数でならせる |
長期の現地拠点化 | 直接雇用 | 人事制度やブランドを持ちやすい |
市場検証中 | EOR | 縮小や撤退の判断がしやすい |
この表は最終結論ではなく、どちらを詳細見積もりするかを決めるための入口です。
国によっては人数が増えても直接雇用の難度が高く、逆に特定の職務では雇用上の統制が必要になることもあります。
採用人数だけでなく、雇用責任をどこまで自社で持てるかを合わせて見ます。
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EORが高く見える理由
EORが高く見える最大の理由は、費用が1つの請求書に集約されることです。
直接雇用では、同じ種類の費用が初期プロジェクト、社内工数、将来の義務に分散します。
その結果、完全なEOR請求書と、不完全な給与だけの数字を比べてしまいます。
給与だけとの比較はずれる
よくある誤りは、EORの総額を候補者の給与だけと比べることです。
この比較では、直接雇用側の雇用主負担、給与計算、契約レビュー、福利厚生管理、退職対応、現地法対応が抜け落ちます。
現地法人を作るまでの時間も、費用として扱われません。
経理上は安く見えても、あとから法務レビュー、法人維持、現地会計、税務申告、人事管理、マネージャー工数が発生します。
それらは請求書の行に出ていなくても、海外雇用を進めるために必要な費用です。
給与連動型の手数料に注意する
EORの料金体系には、固定fee型、給与に対する割合型、国や契約条件に応じた個別見積もりがあります。
シニアエンジニア、データ責任者、現地マネージャーのように給与水準が高い職種では、給与連動型の手数料が大きくなりやすいです。
そのため、事業者比較では月額の開始価格だけで判断しないでください。
ビザ支援、福利厚生、オフサイクル給与、為替、退職時対応、機器手配が別料金なら、低い基本料金でも総額は上がります。
安い事業者を探す前に、自社の採用国と職務で必要な費用項目が含まれているかを確認します。
直接雇用で見落とされやすい隠れコスト
直接雇用が悪いわけではありません。
問題は、直接雇用を給与と給与計算だけで進められると考えることです。
海外で人を雇うには、現地の運用基盤を自社で作るか、外部から買うか、社内で管理する必要があります。
設立と維持の費用
最初に見落とされるのは、現地の立ち上げ費用です。
国によっては、法人登録、銀行口座、税務登録、給与計算の設定、雇用契約の現地化、福利厚生、会計支援が必要になります。
1つずつは対応できても、全体では入社時期を遅らせる要因になります。
設立後も運用は続きます。
給与計算、法定福利、労働法改正、雇用記録、年次更新、社内承認の管理が発生します。
これらは1人目の入社後に消える作業ではなく、継続的な運用負荷です。
撤退とコンプライアンスの費用
次に見落とされるのは、撤退時の費用です。
職務が不要になった場合、本人の成果が合わなかった場合、市場検証を止める場合には、通知期間、退職金、書類作成、現地専門家、マネージャー工数が発生します。
国によっては、採用時よりも退職時の対応の方が重くなることがあります。
もう1つは、責任の曖昧さです。
人事、経理、法務、事業責任者の間で役割が分かれていないと、雇用契約と実際の業務がずれたり、税務上の確認が後回しになったりします。
福利厚生を任意だと誤解したまま進めることもあります。
この種の手戻りは、見積もりには出ませんが、採用計画を大きく遅らせます。
EORが合理的になりやすいケース
EORは、月額手数料の分だけ高くなる方式ではありません。
不確実性、開始までの時間、固定的な管理負担を減らせるなら、EORの費用は合理的になります。
初めての国で少人数を採用する場合や、現地法人を作る前に人材を確保したい場合に向いています。
少人数と初めての国
1か国で1〜5名を採用する段階では、現地法人の固定費を回収しにくいです。
将来的に法人が必要になるとしても、1人目から法務、会計、給与計算、人事管理、維持費を持つのは重くなります。
EORは、その固定費の一部を1人あたりの月額費用へ置き換える方法です。
エンジニアやデータ人材では、この考え方が特に重要です。
必要な人材を3か月待つことで、開発計画の遅れ、既存メンバーの負荷、採用競争での機会損失が発生します。
その時間コストまで含めると、EOR手数料だけを見て高いと判断するのは早すぎます。
市場検証と撤退可能性
EORは、市場検証にも向いています。
その国で採用を続けるか分からない段階で法人を作ると、採用を止めた後も維持費や閉鎖手続きが残ります。
最初の採用がうまくいかなかったとき、撤退しづらい構造そのものがコストになります。
実務上は、雇用機能が先に必要で、現地法人としての運用基盤はまだ不要な段階でEORを使います。
採用人数、継続年数、現地の管理体制が見えてきたら、直接雇用へ移すかを再評価します。
直接雇用が効率的になるケース
直接雇用は、一定の規模と継続性があると強くなります。
現地の運用基盤を繰り返し使えるなら、EOR手数料は柔軟性の対価ではなく、毎月積み上がる追加費用になります。
その前に、採用モデルを見直すタイミングを決めておく必要があります。
人数が増えると計算が変わる
1か国で人数が増えると、法人設立や維持の費用を複数名で分担できます。
そのため、EORを入口として使い、採用が継続する段階で直接雇用へ移る企業もあります。
これはEORの失敗ではなく、市場検証が本格展開に変わったということです。
人数の目安は一律ではありません。
Workdayの解説では、15〜20名以上が現地法人の経済性を検討する目安の1つとして示されています。
ただし、高給与の専門職を採用する場合は、給与連動型のEOR手数料によって早めに再検討が必要になることがあります。
反対に、複数国で少人数ずつ採用する場合は、国ごとに法人を作るよりEORの方が効率的な期間が長くなります。
統制が費用より重要な場合
直接雇用は、費用以外の理由でも有利になることがあります。
現地で会社名を出して採用したい、独自の福利厚生を作りたい、現地責任者を置きたい、営業拠点として長期運営したい場合は、法人を持つ方が統制しやすくなります。
ただし、統制を持つことは責任を持つことでもあります。
労働法、給与計算、福利厚生、従業員対応、雇用記録を自社で管理できなければ、直接雇用は安くなる前にリスクを増やします。
費用だけでなく、社内で運用できるかを先に確認してください。
EOR見積もりで確認すべき項目
EORの見積比較は、事業者の価格競争として見ない方が安全です。
見るべきなのは、何が含まれ、何が別料金で、どの条件が変わると請求額が増えるかです。
ここを整理すると、見積もりの安さと実際の使いやすさを分けて判断できます。
同じ項目で費用表を作る
契約前に、各EOR事業者へ recurring cost、one-time cost、conditional cost、country-specific assumptions を分けて確認します。
そのうえで、直接雇用の場合も同じ項目で費用表を作ります。
同じ期間と同じ費用区分で並べて初めて、経理や経営が判断できます。
確認項目 | なぜ重要か | 記録する内容 |
|---|---|---|
手数料に含まれる範囲 | 不完全な見積比較を避ける | 給与計算、契約、HR、福利厚生 |
雇用主負担の扱い | 給与だけの比較を防ぐ | 税、社会保険、保険料 |
為替の扱い | 月額請求が変動する | 適用レート、手数料 |
退職時の対応 | 撤退費用を見落としやすい | 通知、退職金、事務手数料 |
追加料金の範囲 | 低い基本料金が膨らむ | ビザ、機器、オフサイクル給与 |
この表の回答は、社内稟議にも残してください。
なぜA社の見積もりがB社より高いのか説明できない状態なら、まだ契約判断には早いです。
採用判断までEORに預けない
EORが提供するのは、雇用インフラです。
候補者の発掘、技術評価、報酬設計、チームへの受け入れ、定着までは自動で解決しません。
これらは、雇用契約が成立した後に本人が成果を出せるかを左右します。
日本企業が海外のエンジニアや専門人材を採用する場合、この切り分けは特に重要です。
EORでコンプライアンスリスクを下げられても、職務定義、技術面接、マネージャーの受け入れ準備、オンボーディングが弱ければ採用は高くつきます。
雇用形態を選ぶ前に、採用後に誰が何を管理するかまで決めておく必要があります。
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まとめ
EORと直接雇用の比較は、単なる料金比較ではありません。
海外採用のどの段階で、固定費、コンプライアンス責任、開始までの時間、撤退時の負担をどこまで自社で持つかを決める設計課題です。
EORは費用が1つの請求書にまとまるため高く見えますが、直接雇用では法人設立、給与計算、法務、税務、人事運用、退職対応の費用が別々に隠れます。
比較では、12〜24か月の実効月額にそろえることが欠かせません。
判断の軸は、採用人数、継続期間、社内運用体制の3つです。
少人数、初めての国、急ぎの採用、市場検証ではEORが合理的になりやすく、1か国で一定人数を継続採用するなら直接雇用や現地法人の再検討余地が出ます。
ただし、どちらも最初の見積もりだけで決めるべきではありません。
この比較を社内だけで行うには限界があります。
経理は請求額を見て、人事は運用負荷を見て、事業責任者は採用期限を見ますが、実際の判断はその交差点にあります。
Phinx(フィンクス)は、海外採用の費用設計を、候補者選定、技術スクリーニング、VISA・COE対応、オンボーディング計画と分断せずに整理します。
雇用コストだけでなく、その採用が成功する形まで見て判断できる点に強みがあります。
出典
Remote, Pricing & Plans: Low Flat Rates https://remote.com/pricing
Remote Help Center, How much is the management fee for employees? https://support.remote.com/hc/en-us/articles/37480463833229-How-much-is-the-management-fee-for-employees
Deel, Employer of Record (EOR) https://www.deel.com/glossary/employer-of-record/
Workday, What Is An Employer Of Record? Key Roles & Major Considerations https://www.workday.com/en-us/topics/hr/employer-of-record-global-hiring-compliance.html








