EORとは?インド採用の仕組みと費用・導入手順

インド人材を採用したいが、現地法人を立てるのは重く、業務委託は偽装請負リスクが気になる。 そうした場面で選ばれているのがEOR(雇用代行)です。 本記事では、EORの仕組み・費用感・導入フローを、インド採用支援の実務視点から整理します。
目次
結論要約
この記事でわかること:
EOR(Employer of Record)の定義と、インド人材採用での具体的な使われ方
月額手数料・初期費用の相場感と、見落とされやすい費用項目
契約から稼働までの期間目安(最短2週間〜1ヶ月)
業務委託・派遣・現地法人設立との実務的な違い
EORが向く企業・向かない企業の判断基準
EOR(雇用代行)とは — 定義と仕組み
EORとは、Employer of Record の略で、現地のEOR事業者が法的雇用主となって人材を雇用し、給与支払い・社会保険手続き・税務処理を代行する仕組みのことです。
日本企業はEOR事業者と業務委託契約を結び、実際の業務指示は日本企業側が行います。
現地法人を持たない企業でも、現地法に準拠した形で人材を雇用できる点が最大の特徴です。
法的雇用主と業務上の指揮命令の分離
EORの仕組みでは、雇用契約と業務遂行が分かれます。
法的雇用主: EOR事業者(給与支払い・社保・税務・労務管理を担当)
業務上の指揮命令: 日本企業側(業務内容・成果物・評価を担当)
この構造により、日本企業は現地の労働法・税制への直接対応を回避しつつ、人材を実質的に自社の一員として活用できます。
ただし、雇用契約上の名義はEOR事業者である点には注意が必要です。
長期的に自社の社員として扱いたい場合は、後述する現地法人設立への移行も視野に入ります。
インド人材採用でEORが選ばれる3つの理由
インド人材の活用方法には、業務委託・オフショア開発・現地法人設立など複数の選択肢があります。
そのなかでEORが選ばれる理由は、主に次の3点です。
1. 現地法人を持たずに雇用できる
インドで現地法人(Private Limited Company)を設立する場合、登記から稼働までに約180日かかります。
EORを利用すれば、最短2週間〜1ヶ月で稼働開始が可能です。
法人設立に伴う初期投資(数百万円規模)や、毎期の決算・税務申告の負荷も発生しません。
2. インド労働法・税制のコンプライアンスリスクを軽減できる
インドでは2020年に労働4法典が成立し、州ごとに施行スケジュールや細則が異なります。
対応すべき領域は、EPF(Employees' Provident Fund)の拠出、Gratuity(退職金)、PoSH(職場におけるハラスメント防止)法など多岐にわたります。
日本企業が直接対応するには専門知識が必要です。
EORを利用すると、これらの法令遵守はEOR事業者が担います。
3. 数週間〜1ヶ月のスピード採用が可能
候補者紹介機能を持つEOR事業者を利用する場合、人材紹介から雇用契約・給与支払いまでを一本化できます。
これにより、現地法人設立を待たずに、IT人材確保を急ぐ局面で先行採用が可能です。
特に、Tier1〜Tier2大学出身のエンジニアは、米Big Tech・シンガポール企業からも高単価でオファーを受けています。
こうした層を確保する場面では、スピードが重要な差別化要因になります。
EORの費用感 — 月額・初期費用の目安
EOR利用時のコストは、主に「月額手数料」と「初期費用」に分かれます。
月額手数料の相場
EOR事業者ごとに料金体系は異なりますが、概ね以下の幅に収まります。
月額固定型: 1人あたり月額3万円〜8万円程度
給与連動型: 雇用者の月額給与に対して10%〜20%程度
月額手数料には、給与計算・社会保険手続き・税務処理が含まれるのが一般的です。
ただし、現地での候補者スクリーニング・面接調整・オンボーディング支援は、別料金または対象外となるケースが多いです。
契約前に支援範囲を確認することが欠かせません。
初期費用と見落とされやすいコスト
初期費用としては、契約書作成・現地ガバメント登録・初回入社処理などが発生します。
さらに、月額手数料には含まれない費用として以下が挙げられます。
渡航費・住居手配費(候補者を日本に呼ぶ場合)
医療保険・福利厚生の追加費用
退職金(Gratuity)相当の積立
為替変動による実質コスト増
費用構造の詳細や直接雇用との総額比較は、別記事「EORは本当に割高か?直接雇用と比較して見える費用の盲点」で深く扱っています。
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契約から稼働までの導入フロー
EOR導入の標準的なフローは以下の通りです。
ステップ1: EOR事業者の選定(1〜2週間)
候補者紹介機能の有無、対応地域(バンガロール・ハイデラバード・プネ・チェンナイ等)、契約条件、料金体系を比較します。
インドは地域ごとに人材プールの特性が異なります。
バンガロールはIT人材集積地で競争が激しく、プネは大学が多く新卒採用に向き、ハイデラバードはコスト効率が高い傾向があります。
ステップ2: 候補者選定・面接(2〜4週間)
EOR事業者または別の人材紹介経由で候補者を選定し、オンライン面接を実施します。
Tier1大学(IIT、NIT等)出身のエンジニアは、米Big Tech・シンガポール企業からも高単価でオファーを受けています。
給与だけでなく、キャリア成長機会・技術的挑戦の見通しを示すことが採用成功の鍵になります。
技術面接では、評価基準を自社の業務に必要なスキルに絞り込むことが重要です。
コーディングテストだけで判断すると、設計力・コードレビュー対応力・本番運用経験の差を見落としやすくなります。
Tier1出身者であっても、研究寄りの経歴とプロダクト開発実務の経歴では、入社後の立ち上がり速度に大きな差が出ます。
ポテンシャル評価に偏らず、自社の技術スタック・開発フェーズに直結する実務経験を確認する設計が、ミスマッチ回避の鍵です。
ステップ3: 雇用契約・給与設定(1週間)
EOR事業者と日本企業の間でサービス契約、EOR事業者と候補者の間で雇用契約を締結します。
給与は現地の市場相場に合わせ、EPF・所得税の天引き計算をEOR事業者が処理します。
ステップ4: 稼働開始(即時)
雇用契約締結後、給与支払いと業務開始が同時にスタートします。 日本企業側は通常通り業務指示・進捗管理・評価を行います。
来日させる場合は、別途、技術・人文知識・国際業務(技人国)ビザの申請が必要です。
業務委託・派遣・現地法人設立との違い
EORが他の契約形態とどう異なるかを、判断軸ごとに整理します。
主要な違い
業務委託: 成果物ベースの契約。指揮命令は委託先に帰属。長期化すると偽装請負リスクが発生
派遣: 国内の派遣法に準拠した仕組み。海外人材への適用は実務上難しい
現地法人設立: 自社で法的雇用主となる。設立に約180日、初期投資は数百万円規模、毎期の運用負荷も大きい
EOR: 法的雇用主はEOR事業者だが、実質的に自社の人材として活用できる中間形態
判断軸ごとに4形態を整理すると、選択肢の特性が一目でわかります。

EORは、コスト・スピード・コンプライアンス・規模適性のバランスが取れた中間的な選択肢に位置づけられます。 業務委託・派遣・現地法人設立との横並び比較や、コスト構造の詳細は、別記事「インドEORと他契約形態(業務委託・派遣・会社設立)の比較」で扱っています。
偽装請負リスクの判断基準
業務委託契約で個人と直接契約する場合、業務指示の実態が指揮命令関係に近いと判断されると、偽装請負と見なされるリスクがあります。 EORでは、雇用主はEOR事業者である一方、業務指示は日本企業が行うため、契約形態としては偽装請負には該当しません。 ただし、EOR事業者の管理が形式的なものに留まる場合、実質的に偽装請負と同等と評価される可能性も指摘されているため、契約条件と運用実態を整合させる必要があります。
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EORが向く企業・向かない企業
EORは万能の選択肢ではありません。 向く企業と向かない企業の判断軸を整理します。
中小企業がEORで「擬似GCC」を構築する発想
中小企業の場合、EORを「擬似的な現地拠点」として機能させる発想もあります。
米国企業がインドに設立するGlobal Capability Center(GCC)は、本社の戦略機能を現地で内製化するモデルです。
ただし、GCC構築は現地法人を持つことが前提で、立ち上げに数千万円規模の投資と1年以上の準備期間が必要です。
日本の中小企業がいきなり現地法人を立てるのは負荷が大きすぎますが、EORで小規模な専属チームを持つことで、GCC的な内製能力構築を擬似的に実現できます。
将来的に拠点規模が拡大したタイミングで、現地法人化に移行するステップアップ設計が現実的です。
EORが向く企業
インド市場のテスト段階で、まずは少人数(数名〜10名未満)で動き出したい企業
IT人材確保を急いでおり、現地法人設立を待つ余裕がない企業
海外人事・労務の専門人材が社内におらず、コンプライアンスを外部に委ねたい企業
中小企業で、初期投資を抑えながら海外採用に着手したい企業
EORが向かない企業
インド国内で20名超の長期展開を計画しており、3〜5年スパンで自社の現地拠点化を見据える企業
自社の人事制度・評価制度を強く現地に反映させたい企業
機密性が高い研究開発・知財管理を含む業務を扱い、雇用主名義の分離を避けたい企業
EOR・オフショア開発・国内採用(技人国ビザ)の3択を経営戦略レベルで判断したい場合は、別記事「インド人材採用か、EOR・オフショアか。最適な戦略の分岐点」が参考になります。
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EOR導入で見落とされがちな失敗パターン
EOR導入後に問題が発生するケースは、以下の3つに集約されます。
1. EOR事業者の支援範囲を過大評価する
EOR事業者によって、候補者紹介・技術スクリーニング・オンボーディング支援の対応範囲は大きく異なります。
「EOR=採用代行」と理解して契約したが、実際は給与計算と労務手続きしか対応せず、候補者選定は自社で行う必要があった、というケースが頻発します。
契約前に、自社が必要とする支援範囲を明確化し、書面で合意することが重要です。
2. 候補者の質を見誤る
EOR事業者経由の候補者紹介では、現地の採用市場での競争力を考慮した給与提示が不可欠です。
Tier1大学卒業生やシニアエンジニアは米Big Tech・シンガポール企業から高単価のオファーを受けており、日本企業の通常水準では応募が集まらないか、Tier3大学のジュニア層しか確保できないことがあります。
インド国内の市場相場と、自社が必要とする人材レベルを照合した上で、給与設計を行う必要があります。
3. 直接雇用への移行設計を怠る
EORで雇用した人材を、将来的に自社の現地法人または日本本社で直接雇用したい場合、移行プロセスは事前に設計しておく必要があります。
雇用主の変更には、本人合意・契約の巻き直し・退職金処理・在留資格切り替えが伴います。 「とりあえずEORで始めて、軌道に乗ったら法人化」という方針は妥当ですが、移行タイミングの判断基準と必要手続きを契約段階で整理しておくことが望ましいです。
EORとオフショア開発を併用する場合の失敗パターンは、別記事「EORとオフショアは併用できる?失敗パターンを解説」で扱っています。
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EORとオフショアを併用する企業は増えていますが、責任範囲を整理しないまま導入すると、品質低下やマネジメント負荷の増大を招くケースが少なくありません。 本記事では、EORとオフショアの構造的な違いを整理したうえで、併用時に起きやすい失敗パターンと実務上の設計方法を解説します。
まとめ
EOR(雇用代行)は、現地法人を持たずにインド人材を雇用できる中間的な選択肢です。
本記事の要点は次の通りです。
EORは現地のEOR事業者が法的雇用主となり、給与・社保・税務を代行する仕組み
月額手数料は1人あたり3万円〜8万円程度、または給与の10〜20%が目安。事業者・地域・職位で幅がある
契約から稼働までは最短2週間〜1ヶ月。現地法人設立(約180日)と比べてスピーディー
向くのは10名未満の少人数で市場テストを行う企業や、IT人材確保を急ぐ中小企業
失敗パターンは「支援範囲の過大評価」「候補者の質の見誤り」「直接雇用への移行設計の不足」の3点
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